日々是ジャグリング

ジャグリングを通じて感じたこと考えたことを綴っていきます。

作品は舞台をはみだして:オムニバス公演『秘密基地vol.8』感想

どうも、ゴ~チョです。やってしまいました。8月投稿数ゼロ......
言い訳をするならば、ジャグリングマーケットの準備でわたわたしていたせいです。

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ジャグリングマーケットについても、イベントレポートを別途書いていこうと思いますが、ひとまず本記事では8月25日(土)・26日(日)に上演された『秘密基地vol.8』の感想を書きます。

オムニバス公演『秘密基地vol.8』

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ジャグリングの実験場

過去記事にも書きましたが、『秘密基地』公演について一言で表現するならば

「ジャグリングの実験場」

というのがふさわしいかと思います。
Juggling Unit ピントクル代表の中西氏曰く

「秘密基地はもう普通のルーチンをやることが、逆に尖ってみえるからなあ(笑)」
(秘密基地マガジン「アトチ」p38より抜粋)

かくいう僕も昨年12月の前回公演に出演したときは、普段のルーチンではなかなかやらないようなことを色々盛り込んだ作品を持っていきました。今回もやはり『秘密基地』という場がそうさせるのか、演者の皆さんここぞとばかりに色々仕掛けてきていました。

山下 耕平『雲をにぎる』

新聞紙によるトスジャグリング

板付きスタート。会場に入って着席して、開演時間を待ちながらふと舞台上を見たらすでに演者の山下くんが座っていました。床に置いた新聞読んでました。こういった、開演前から演者がオンステージな演出は、観客からすると既に作品が始まっている気がして、お得感があって良いです(その分、出ずっぱりの演者の負担は増えますが)

 

「きらきら星」のピアノ演奏をBGMに、新聞紙で戯れ始める山下くん。広げた新聞を落としたり、手のひらに載せたまま腕を振り回したり、紙ヘリコプターを連想させるシーンがあったかと思うと、今度は紙を小さく小さくたたんでいき、小さな正方形になった新聞紙3つでトスジャグリングを始めます。

 

球とは程遠いかたちで、傍からみるととても投げにくそうなのに次々と技を繰り出していきます。
日常に潜むジャグリング要素に対して、「あれ、これ投げれんじゃね?」という発見から実験に移り行く様は、ジャグラーならば共感できると思います。山下くんの上下スウェットに裸足の姿もあいまって、さながら「オフの日のジャグラー」あるいは「ジャグサー合宿3日目の夜」といった感じでした。

mk『黒い犬は光を食べるので退治しなければならない』

ポッドポイによる作品

mkさんの作品は、一遍の映画を観ているようでした。一部マジックの手法も加えて、光を食べる不思議な「黒い犬」を表現し、光を食べるがゆえに害獣扱いされているその犬をかくまう人物を演じていました。

 

さらにmkさんの作品で特徴的だったのは、メディアミックスルーチンレシピの事前公開です。ご自身のTwitter上で今作品のCM動画を作られていたのに加え、作品タイトルにも登場する「黒い犬」をあしらったオリジナルマグカップを作成し販売することで、ルーチンの世界観を広げ補足することに一役買っていたように思います。そして秘密基地のブログにて今作で行う技とその流れを事前にすべて明記して公開していました。ポイの技名がちゃんとわかる人が見れば、そのレシピからどのようなルーチンをするのか想像することもできるし、当日どの箇所にアドリブが入ったのかも解るという、ルーチンの新しい楽しみ方を狙った試みです(残念ながら僕はポイの技に疎く、狙った楽しみ方ができたかと言えば怪しいところです...)

↓↓件のCM動画です。

 

そのまま絵本なんかも書けそうな、奥行きのある世界観をもった作品でした。

劇団なかゆび『から』

演劇作品

暗転スタート。声はすれども姿は見えず。その声は、ときどき客席に向かって問いかけるのですが、こちらとしては答えようもなく、投げかけられた問いは受け止められることなく話者のもとに戻っていく...あ、そういうジャグリング?空振りした問いかけによる、言葉のジャグリング的な?

と、考えているうちに明転。舞台にはスタンドマイク、パイプ椅子、椅子に掛けられた衣裳、スーツケース。でもやはり演者の姿はありません。声だけが聞こえている。声が提供する断片的な情報から話者の姿や背景を想像するのですが、途中で人格が変わったように口調が変わったりして、いつまでも像が結びきれません。

最後に、天井から伸びたロープに吊るされて、パイプ椅子が宙に舞います。声から想像できる人物像を次々に投影しては戻されて、投影しては戻されて...ひょっとすると、観客側がジャグリングさせられていたのかもしれません。

中西 みみず『Juggling Dissection

ボールと集音マイク、波形モニタを使った作品

dissection:(名詞)解剖、解体、精密な吟味
weblio英和辞典より

文字通り、ボールを焼いたり、落としたり、こすったり、水浸しにしたり、切って中身を出したり、中西くんが色々と吟味している様を眺めたり、その際にボールから発される音(と、それにより可視化された波形)を吟味したりする作品でした。こうしてみるとボールっていろんな音を出してるんだなぁと感心しました。ホットプレートでボールを焼いたり、皿に乗せたボールをナイフで切ったりする様子はチャップリンの映画を思い出させます(革靴を食べるシーンがあったはず)。

 

普通、市販のボールは水につけてしまうと中身が腐ったりしてダメになってしまうのですが、今作品で使用しているボールは、それ用にPMジャグリングさんに特注された「丸洗い可能ボール」。その他にも包む布地をフェイクファーや縮緬にして、こすったり叩いたりしたときの触感にもこだわっています。通常は使われない素材だけど、使ったらどうなるのだろう、何ができるだろう。そんな吟味も含まれるような作品でした。

pmjuggling.com

染谷 樹『いつか、どこかで、』

シガーボックスによる作品

上手には椅子。下手にはプロジェクタ。演者本人が撮影した街中の写真をスライドショーで映しつつ、ほぼ環境音のような音源を背景にジャグリングを始めます。大道芸人がするような、「いわゆるシガーボックス」的な動きは一切しないシガーボックス。「この道具って、こんなに静かに技できるものだっけ?」と疑うほど、染谷さんの動きは柔らかで精確(うらやましい)。ルーチンのところどころに、かつて流行って今やる人があまりいなくなった技があり、「ああ、こうやって彼が拾い集めて作品に昇華してくれているんだなあ」と思うととてもありがたい気持ちになりました。

宮野 玲『東海道中膝栗毛

生ナレーションとともにジャグリング

宮野さんの作品は、7月29日の時点から始まっていたといっても過言ではありません。29日に荷物をまとめ、30日に日本橋を出発。東京から会場となる京都まで、東海道に沿って歩いて向かう旅を宮野さんは敢行しました。ご自身のTwitterなどで逐次報告される旅の様子が注目を集め、「#宮野玲の東海道中膝栗毛を応援しています」というハッシュタグが発生するほどでした。旅の道中をTwitterで見ながら応援してきた人からすれば、宮野さんの姿が当日の京都スタジオヴァリエにあるというだけで感動を覚えます。

 

そして当日舞台で読まれる旅日記(しかもMCとみさこ氏による生朗読)、それをBGMにしておもむろに繰り広げられる超絶ワザ。旅日記で語られる道中のドラマに思いを馳せたり、感情や登場人物の違いにより巧みに演じ分けられる朗読の技術に舌をまいたり、淡々とこなされていくジャグリングに目を瞠ったりと、贅沢な時間でした。

 

余談ながら、宮野さんは秘密基地終演後、東海道を大阪まで歩ききってから東京に帰られたそうです。

ひろた『ようこそひろたパークへ』

ボールルーチン

アニメ『けものフレンズ』のキャラクター「かばんちゃん」のコスチュームで、同作品のキャラクター「ラッキービースト」のぬいぐるみを持って登場。ぬいぐるみでボールをバウンドさせる技が面白かったです。BGMは同作品のOPテーマの男性ボーカルカバー。オリジナルよりもロック色の強いアレンジに合わせてノリノリに決めてくれました。頭をカラにして楽しめる作品でした。

実験的商品が並ぶ物販も楽しい

秘密基地では、観客と演者のコミュニケーションの場のひとつとして物販の時間を設けています。
今回は、演者であるmkさんと、ピントクル、そして中西みみず作品に道具提供をしたPMジャグリングさんが出品していました。

 

なかでも注目したのがmkさんの「黒い犬」のマグカップと、秘密基地マガジン「アトチ」です。mkさんのマグカップは、“ルーチンが表す世界観をもとに別の物品をつくる”という行為が新しいなと思いました。
秘密基地マガジン「アトチ」は今回初の刊行。内容は前回公演の演者へのインタビューと、秘密基地公演を運営するピントクルメンバーの対談から成っています。ジャグリング関連の読み物はまだまだ少ないので、それだけでも充分価値ありですが、ピントクルメンバーが秘密基地公演の足跡を辿りながら、それぞれの思いと今後について語るページは、ジャグリングで何か面白いことをしたいと考えている人なら誰もが読んでおいて損はない内容だと思います。

作品は舞台をはみ出して

毎回実験的で前衛的な秘密基地公演ですが、今回は作品が舞台の枠に収まりきらずはみ出してしまっているがゆえの良さというものを感じました。

特にmkさんと宮野さんの作品は、本番で演じられる前から観客が作品に思いを馳せる時間が設けられている点で演出が秀逸だなあと感じ入っております。mkさんの「黒い犬」にはマグカップでまた会えたり、宮野さんの旅は大阪まで続いていたりと、終演後も作品の余韻が続くのもまた良いですね。

良い作品を観ると自分も新たに何か作ってみたくなります。

ではまた!