日々是ジャグリング

ジャグリングを通じて感じたこと考えたことを綴っていきます。

元保育士の美人フレアバーテンダー?―ジャグリングが登場する作品の紹介(20)早川パオ『まどろみバーメイド』

 どうも、ゴ~チョです。私のなかではグッチ裕三といえば「歌いながら料理する人」なのですが、今は「ハッチポッチステーションの人」というべきでしょうか。と書きつつ、ハッチポッチステーションの放送終了がもう15年以上前であることに衝撃を受けています。

 

 今回は「歌いながら料理をつくる」のではなく「ジャグリングなどパフォーマンスをしながらカクテルをつくる」フレアバーテンダーが登場する作品の紹介です。

 

早川パオ『まどろみバーメイド』

 屋台バー、ホテルのオーセンティックバー、フレアバーでそれぞれ働く3人の若き女性バーテンダー(=バーメイド)の日常と成長を描く成年男性向けコミックです。ちょこちょこ読者サービス的なカットが挟まるものの過度な露出はそれほど多くなく、人物の心情描写もカクテルに関する説明も丁寧なので男女問わず読みやすい漫画だと思います。

 

 メイン主人公の月川 雪つきかわ ゆき(1巻の表紙)、そして彼女とルームシェアをしている陽乃崎 日代子ひのさき ひよこ(2巻の表紙)、伊吹 騎帆いぶき きほ(3巻の表紙)の3人を中心に物語は進みます。

 

フレアバーテンダー陽乃崎日代子

 ジャグラーとして注目すべきは、フレアバーテンダーである日代子がメインの「杉並区民祭編」でしょう。単行本4巻〜6巻(28話「ラストワード」〜39話「スターティングオーバー)で展開されるお話です。

 

 スランプに悩む日代子は、傾きかけた実家の経営を助けるため、フレアへの未練を残しながらも姉達がすすめるお見合いに出席。それは日代子の本心ではないと感じた騎帆と雪は愛知のホテルまで乗り込みます。

 

 バーテンダーの仕事に理解のない姉たちとの会話は平行線をたどりますが、日代子の勤め先のBARストリームの人見店長は近日催される区民祭のステージで4アイテムを成功させられるか否かでフレアバーテンダーとしての進退を決めるよう提案します。

 

 私はフレアバーテンディングに関しては門外漢なので漫画内でなされる説明には基本的には「なるほど」とうなずくしかないのですが、ジャグリングと共通する部分に関して共感したり気になったりしたことを書いていきます。

 

※以下、ネタバレを大いに含みますので、未読でネタバレNGの方はここまででページを移動してください。

ジャグラー目線の感想

投げ癖はジャグラーも職業病

 お見合い中、ホテルの従業員がコースターを忘れているのに気づいた日代子。とっさに持っていた懐紙を投げてグラスとテーブルの間に滑り込ませます。姉たちには「お行儀が悪い!」と叱られます(畏まったお見合いの席だし着物きてたし…)が、ジャグラー的にはお見事な所作です。

 

叱られた日代子は

 

「投げ癖はフレアバーテンダーの職業病……」

 

と心中ひとりごちるのですが、

 

……わかる。

 

ジャグラーの場合さらにお行儀がわるいのは、投げ癖だけでなく「蹴り上げ癖」もついてくるところだと思います。下記事参照。

juggling-gohcho.hateblo.jp

 

ただのジャグリングより難しい

 作中、フレアバーテンダーの人見店長いわく

 

ジャグリングボールは1個100gほど。対してボトル1本は中身も含めて500g以上

 

「ジャグリングボールは1個100gほど」

 

……ホンマに?

 

ちょっと調べてみました。

 

ロシアンボール(75mm):105g

ビーンノーマル:130g

ビーンラージ:180g

ピルエットクラブ:218g

ジャグリングナイフ:220g

 

情報元:ナランハジャグリングショップwebサイト

 

 人見店長の見積もりは若干軽め、それにどうせ比べるならボールよりも形状が瓶に似ているクラブと比較すべきな気もしますが、それでも酒瓶と比べると2倍以上の重量差があります。

 それに、作中ではほぼ触れられませんでしたが、フレアとトスジャグリングが大きく異なるのはその投げ方と掴み方でしょう。

 

 クラブジャグリングでは基本のトスおよびキャッチのときに手のひらは上を向いており、親指側にヘッド、小指側にノブが来ます。多少のズレはありますが、トス&キャッチの瞬間、クラブのヘッドは寝ています。クラブ3本では回転数は基本的にシングル(1回転)です。高く投げ上げたり本数を4本以上に増やしたりするときにダブル(2回転)やトリプル(3回転)を投げます。

ジャグリングクラブの掴み方

 

 一方、フレアでのボトル投げではトス&キャッチのとき手首を立てて手のひらは前方あるいはやや下方を向いており、親指側にポアラ、小指側にボトルのボディが来るのが基本にみえます。クラブジャグリングではあまりやらない投げ方です。回転数も中身が溢れないようにダブル(2回転)が最低ラインのようです。掴める部分もクラブのハンドルと比較すると圧倒的に短く、ボトル同士の激しい接触は御法度。

フレア時のボトルの掴み方

 お酒の席でビール瓶を押し付けられて無茶振りをされたことのあるジャグラーならば、自ずと難易度は推し量れるかと思います。

 

クラブを華麗に操れる Taylor 姐さんがフレアボトルに苦戦する動画


www.youtube.com

 

マリブは投げやすい、モーツァルトは鬼

 

 作中ではマリブはそのボトルの形状から「フレアバーテンダーに愛され、フレアバーテンダーを愛する酒」として紹介され、モーツァルトは逆に「フレアバーテンダーを拒絶する酒」と称されています。ずんぐりしたボディで回転制御が難しく、掴む部分がほとんどないモーツァルトが「鬼」なのはとてもよくわかります。マリブは投げやすそうです。練習用のボトルともかなり近い形をしています。

 

 個人的には下に載せたボルスの瓶も投げたくなる形をしています。ヨーグルトリキュールとか色も相まって特に。

カスケードの語用がジャグラーとちょっと違う?

 フレアバーテンダーが実力者かどうかを見極める指標「4アイテム」。そのなかでも最高難度とされる「4ボトル」の投げ技「4ボトルカスケード」

 

……ん?

 

"4"ボトル

 

"カスケード"……?

 

 以前に「ミルクボーイ風漫才」の記事でも紹介しましたが、トスジャグリングでは投げるものの数が偶数か奇数かで投げ方と名称が変わります。偶数個の場合はカスケードとは呼ばずにファウンテンと呼びます。

juggling-gohcho.hateblo.jp

 

 フレア界では偶奇に関わらず「カスケード」と呼んでいるのかなと思い、いくつかフレアの動画を見てみたのですが、名称に関しては明記・名言されているものが見つけられず私の調査範囲では確認は取れませんでした。

 

 漫画内でのルビ「数珠つなぎ」は話の流れにもそっていて説得力もあったのでこれはこれでアリかなとは思います。

練習してなきゃ5はできん!

 作中では、ステージに乱入しかけた酔っ払い客が転がした酒瓶を、日代子がキックアップして4アイテムどころか見事5アイテムを成功させます(ワオ)

 

 いわゆる「ゾーンに入っていた」という設定でしたが、これはさすがにないなぁと思ってしまいました。

 

 技の名称はともかくアイテムの偶奇で基本の投げ方が変わるのはジャグリングでもフレアでも同じだと思います。練習の合間に戯れにでも投げてみたことがあるならばともかく、4の練習までしかしていない人が本番でいきなり5を(しかもキックアップスタートで)決めるのはまず難しいです。せめて5アイテムを成功させている人の動画か何かを事前に目撃していないと、たとえゾーンに入っていたとしても厳しいのではと思います。

 

フレア回以外も面白いし、実写化もされている

 フレアシーンを期待して読み始めた漫画でしたが、カクテルの説明や描写が丁寧で、バー監修の下で出されるツイスト(アレンジ)も面白いので、今ではジャグリング関係なしに読み進めています。

 

 2019年に一度実写ドラマ化されており、そちらではフレア指導&バー「ストリーム」店長役としてフレアバーテンダーの富田晶子さんが出演されています。


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 個人的には剣堂さん役が遠藤憲一氏じゃなかったのと、若尾ミチルちゃんの性格が原作と変わってしまっていたことが密かに残念でしたが、主人公3人の配役がよくて完成度が高かったと思います。2021年に一度再放送されていますが、また再放送してほしい作品です(待てない人はDVD-BOXを買おう)

 

ではまた!