どうも、ゴ~チョです。
ジャグリング検定が改訂されましたね。そちらも近々記事にしたいと思いつつ、今回紹介するのは外出自粛期間中に読んだコチラ
筑井千枝子『オフカウント』
中二男子3人組の文化祭奮闘記
期待して見守ってくれる人がいるというだけで勇気がわいてくる―。いっしょにいるから、すれ違うこともある。ほぼ帰宅部3人のジャグリング&ダンス・デイズ。
牧野、リョウガ、タモツは中学2年生。牧野は独学でバック転ができてしまうほど運動神経抜群だが頑固で我が強く、中二のはじめにコーチと衝突してバスケ部をやめてしまう。リョウガもバスケ部だったが牧野の退部を機になんとなく退部、今はタモツと同じ美術部にいる。タモツはおっとりとした性格でノートは授業中に描いたイラストだらけ。六月、帰宅部で暇を持て余した牧野が「何かでかいことをやりたい」と言ってブレイクダンスのウィンドミルを練習し始める。せっかくならと3人でパフォーマンス・ユニットを組んで九月の文化祭有志ステージに出ることを決意。見せ場がウィンドミルだけでは寂しいということでリョウガはジャグリングをすることにした。リョウガの幼馴染でダンス部のリエの助言も受けながら、3人の特訓が始まった。
という感じのお話です。主にリョウガ視点寄りの三人称語りで進行します。
余談ですが、ジャグリングをする少年の名前が、実在するジャグリングドラゴンの名前と一字違いです。
ダンスがメインでジャグリングはサブの模様
タイトルの「オフカウント」はダンス用語の"裏拍"のことみたいです。オフカウント以外にも、作中にはダンス用語がいくつか登場します。
が、しかし、ジャグリングの用語はダンスほどは出てきません。「ジャグリングの棒」あるいは「ピン」が「クラブ」という名前であることが述べられているのと、一つだけ「トスアンドターン」(動きの描写から推測するに1アップハーフターンのこと)という技名が出てきましたが、後は具体的な動きの描写にとどまり、専門用語は控えめでした。専門用語も出しすぎると説明に文字数が割かれて話のテンポが落ちるため致し方ないことなのかもしれませんが、ジャグリングをする身としては少し寂しい。。。
リョウガのジャグリング成長レベルは
リョウガは年の離れたいとこにジャグリングを見せてもらって興味をもち、練習動画程度は見たことがありました。とはいえ六月に有志ステージ出演を決意した時点では、全くの初心者。そこから練習して七月の有志ステージオーディションに臨んでいます。そこではすぐにドロップして散々な結果だったものの、既にボールジャグリングを披露しかけています(技数や技の種類については言及がありません)。仮に3個の基本技カスケードだけをやったとしても、
- 初心者スタートの1か月後に初舞台
- ダンスも練習している
- 全体のテンポを崩さずダンスの途中にジャグリングを差し挟む
という条件で臨んだことを考えると、中学生らしい無謀さといいますか、かなり肝が据わっていることが窺えます(私は高校修学旅行での自分の初ステージの惨事を思い出して胃が痛くなりました)。
ただ、七月のオーディションから八月までの成長速度はなかなかです。作中の描写から、ボールジャグリングでは5通り(技の詳細は不明)の技を淀みなくこなす他、クラブジャグリングにも手を出し、カスケードからハイトス、ヘッドバランスまでマスターしていることが読み取れます。
九月の本番ステージでは以下のように描写されるほどにレベルアップしています。
ボールの回し方はリズミカルで、とぎれることはない。回し方を何種類か変えているのに、どう変わったのかもわからないくらい自然にボールが流れていく。
作中にジャグリングの指導者は出てこない(一度、ジャグリング一日講習会に出向いていますが、「初心者向けであまり役には立たなかった」そうです)ので、練習方法やパフォーマンスの技構成を自分で試行錯誤しながら取り組んだのでしょう。それでいて6月から9月までの3か月間で上のように賞賛されるレベルにまで仕上げることができたということは、リョウガは実はけっこうなセンスの持ち主かもしれません。
リョウガのいとこは何者?
「練習不足の初舞台でぼとぼと落とす」「クラブの練習で爪が欠ける」「道具を買ったときに解説書がついてくる」等、ジャグリング経験者があるあると頷いてしまいそうな描写がある一方で、ジャグラーとしては気になる描写や、もう少し掘り下げてほしかった部分もいくつかありました。
行ってきたジャグリング一日講習会は、初心者向けであまり役には立たなかった。
と、リョウガがのたまう場面があります。ジャグリングの講習会が中学生の行動範囲内で開催されていることにまず羨ましさを感じるのですが、それはさておき。確かに一般向けのジャグリング講習会は“カスケード以前”の方が想定されているため、リョウガのように“カスケードから先”を知りたかった人にとっては物足りないものになりがちなのは否めません。
ただ、受講者に一人明らかにレベルの違う人がいたら実際には講師が気づいて何かしら別のことを教えてくれたりするんじゃないかな、と思います(私も何回か講習を開いたことがありますが、顔見知り以外でリョウガみたいな子がいたらテンション上がります。逆にその子につきっきりにならないように自制しないといけないレベルで)。講習会の所定時間中には無理だったとしても、終わり際に講師に質問してアドバイスを受けるくらいはできたんじゃないかなと思います。
例えば、
「文化祭で○○分くらいのパフォーマンスをしたくて、今これだけの技ができるんだけど、他に練習すると良い技はあるか、構成はどうすればいいか」
みたいに。
講師や会場の予定がカツカツでなければ、大抵は答えてくれるんじゃないかなと思います。まあ、リョウガは思春期真っただ中の年齢なので、初対面の大人に果敢に質問に行くという発想自体がなかったのかもしれません。
それと、もうひとつ気になるのはリョウガのいとこ(リョウガにジャグリングを見せた人物)が何者だったのかです。作中では冒頭にさらっと記述があるだけで実際の登場は一切ないキャラでした。彼(性別が明言されていないので彼女の可能性もある)がどんな人物かも含めて、リョウガがジャグリングをしようと思った経緯がもう少し細かく描写されてほしかったな、とジャグラーとしては思ってしまいます。本作品のメインテーマはダンスの方なので、バランス的には仕方ないと言えば仕方ないのですが。
大学生はまだか?
以前に紹介した『空より高く』は高校生がジャグリングをする小説でした。
今回紹介した『オフカウント』の主人公たちは中学生でした。
確かなデータがないのでなんともいえませんが、日本のアマチュアジャグラーのマジョリティはおそらく大学生だと思います。
ここらでそろそろ大学のジャグリングサークルを描いた小説が出てきてほしいな、と思う今日この頃(自分で書くか?)。
ではまた!