巨人の肩の上に立つ、ゴ~チョです。
先日、SNSにておそらく学生ジャグラーの方がこんな趣旨のことをいっているのを見かけました。
「パフォーマー側、観客側に左右されずにステージ上の方向を示す言葉があったら便利なのに......」
予備知識のない状態からその必要性にまで考えが及んだその思考力は素晴らしいものだと思いますが、ただその方に言いたいのは
「それ、あるよ」
ということ(ネット上のことなので、知ってて言ってるいわゆる「釣り」かもしれませんが)。何ごとも調べればいろいろと先人の知恵が見つかるというもの。苦労して車輪の再発明をした末に「君らのいる場所は我々はすでに三千年以上前に通過している」と言われないためにも、
今回はジャグリングの活動に役立つかもしれない他分野の専門用語を、舞台用語を中心に紹介したいと思います。
場所や方向を示す用語
上手⇔下手
言わずもがなかもしれませんが、読みは「じょうず」「へた」ではなく「かみて」「しもて」。舞台上でどの辺に立つのか、どっち側に動くのか伝えるときに、「右」「左」だと舞台上から客席を見たときの方向か、客席から舞台を見たときの方向か紛らわしいので、「北」「南」のような絶対的な方位呼称として使われています。
客席側から見て左側が「しもて」、右側が「かみて」です。古代ギリシャの舞台では原則、時間は上手→下手へ流れてゆき、新人物や新情報は上手から現れ下手に消えていくそうです。横書きの文章がまさしくそんな感じですね。この原則は「スーパーマリオ」等の横スクロールゲームにも適用されています(敵や新しい道は右から出てきて左に消えていく)。また、立場が上のものが上手、下位のものは下手に配置されていたのだとか。つまり、マリオ(プレイヤー側)が下手、クッパ(ボス側)が上手というわけです。
ツラ⇔奥
ステージ正面で客席との境界側を「ツラ」と呼び、逆に客席から遠い方を「奥」と呼びます。さきほどの上手下手を含めてまとめると図のようになります。
きっかけに関する用語
暗転⇔明転
場面転換のために照明ONの状態から瞬時に全照明をOFFにして暗くすることを「暗転」、逆に真っ暗な状態からパッとステージを明るくすることを「明転」といいます。「全照明」といいましたが、ブルーの照明だけ残して足元が見えるようにしておく暗転もあり、本当に何もかも消して真っ暗にすることを「完全暗転」と言って区別したりします。
板付(いたつき)⇔音先(おとさき、おとせん)
演者がすでにステージ上にいる状態から音楽をスタートさせることを「板付」といいます。逆に、音楽を先にかけてから演者がステージに出ることを「音先」といいます。
自分で作ったルーチン、板付か音先かご自身で把握してますか?
自分では気にしていなくても、音響操作者は気にします。また、音響操作を自分でしないといけないなど、会場の状況によってはどちらかが難しい場面もあります。なので、ルーチンは板付ver.と音先ver.の両方を用意しておくと安心です(そのあたりに関しては後日記事を改めて書こうと思います)。
緊張ソング(キンソン)
舞台開演○分前に流れる曲。前もって流す曲を決めておいて、関係者各位が「あ、○分前だな」とわかる様にしておく仕組みそのものを指す場合もあります。「気を引き締めていけよ」という意味でこの名前なんだと思います。以前にご紹介したドーナツライブでは開演前の会場で毎回、Scott Joplin作曲の「The Entertainer」が流れます。そのせいで、ドーナツOBOGの方は今でもこの曲を聞くと胃がキュッとなるとかならないとか。
ステージ上の振舞いに関する用語
はける⇔出る
「ではけ」、とも「いりはけ」とも聞くのでなんともややこしい用語です。いずれにせよステージ上から退場することを「はける」といい、その対義語として「出る」や「入る」を使います。
なんとなくですが、舞台上の役者の動きとしては「出はけ」を使って、控室などの舞台裏も含む現場からの入場撤収についてを「入りはけ」と使い分けているような気がします。が、団体によっても異なるかもしれないので都度確認が必要です。
第4の壁
第1~3は舞台奥と両サイドの物理的な壁(それぞれがどこを指すのかはわかりませんが)、そして第4の壁は、舞台と客席とを隔てる「見えない壁」を指します。基本的に舞台上の演者たちは、客席との間に壁があるていで話をすすめます。たまにこの「壁」を破ってお客さんと会話しちゃうタイプのお芝居もあったりしますが。
舞台に限らずドラマや漫画にも第4の壁を破る演出は使われています。アメコミだと『デッドプール』、日本のドラマだと『古畑任三郎』などがそうです。今放送中の仮面ライダーもよく壁を破って視聴者に話しかけていますね。
ジャグリングの場合、喋りながらおこなう大道芸タイプの演目は「壁なし」ですが、ステージルーチン等は「壁あり」の演目と呼べるかもしれません。ただ、拍手を求めるドヤ顔は明らかに壁を超えた先に向けられた何かなので、一概には言い切れないですね。
見切れる
舞台用語では「本来見えてはいけないものが客席から見えること」です。が、ネットの辞書で調べてみると第一義に「対象の一部フレームアウト」が出てきます。なお手元の広辞苑(第六版)には「みきれる」自体が載っていませんでした。「見えてはいけないものが見えている」「見えてほしいものが見えていない」どちらの意味も人口に膾炙してしまっているようです。ただ、後者の意味で使うと、舞台関係の方が一瞬混乱するかイラッとするかもしれません。こういったややこしい用語は知っておいて損はないですが、慣れないうちは無理に使わず他の言葉で置き換えるほうが無難ですね。
場見る(バミる)
舞台上の大道具・小道具の位置や場面転換時の演者の立ち位置などを、ビニールテープや蓄光テープを床に貼り付けて目印にする行為を指します。名詞形は「ばみり」。
その他
ワークショップ
この言葉はジャグリング従事者でもすでに耳馴染んだ言葉だと思います。もともとは芸術系の分野で使われだした言葉で、「参加者の主体性に重きを置いた体験型の講座」のことをこう呼びます。
ジャグリングの場合は、座学では収まりきらないので必然的に参加者も一緒になって動くことになるので、大抵の講座は「ワークショップ」の形式をとることになります。そのためにいつしか「ワークショップ=講座のこと」のような認識になっているのではないかと思います。
他ジャンルの巨人の肩にもどんどん乗っていこう
界隈では有名な話として「ジャグリングはエジプトの壁画に描かれるほど歴史が古い」というのがありますが、現代の形のジャグリングが成立したのは1800年代後半のことらしいです(ジャグリングの原形が古くからあったのは事実です)。意外と歴史が浅いうえに、演目上の性格からか、書き記し残されたものがあまり多くはありません。ジャグリングの巨人は、実はそんなに背が高くないのかもしれません。
自分はジャグラーであるという自負があったとしても、ときには他ジャンルに首をつっこんでみると新しい知見を得て、かえってあなたのジャグリングの幅をひろげることもあるのではないでしょうか。先人の知恵を借りることを「巨人の肩の上に立つ」となぞらえた海外のことわざがありますが、上れそうな巨人の肩にはどんどん乗っかって、見える景色を広げていきたいものです。
ではまた。