日々是ジャグリング

ジャグリングを通じて感じたこと考えたことを綴っていきます。

ジャグリングが登場する作品の紹介(1)―重松 清『空より高く』

こんにちは、ゴ~チョです。

TVドラマでチラッとジャグリングをしている大道芸人が登場したりすると
テンションが上がったりします。(そして大抵知っているジャグラーだったりします)
サスペンスドラマとか、よくありますね。科捜研の女とか9係とか。

 

なぜテンションが上がるのかというと
ジャグリングを取り上げるメディアがまだまだ少ないからなのかなと思います。
今回は、新カテゴリを作って「ジャグリングが登場する作品」の紹介をしていきます。

 

ということで、第一弾はこちらです。

重松 清『空より高く』

空より高く

空より高く

 

印象的な青空の表紙

青空をバックに真っ赤なディアボロがどーん!

良いです。
専門書以外で表紙にジャグリング道具載ってる書籍なんてまず見ないですからね。
ついジャグラー目線で

「あ...回転平面乱れまくってんな...」

とか思ってしまうのを差し引いてもさわやかで素敵な表紙です。

単行本の表紙のインパクトもいいですが、文庫版の表紙もいいですね。

空より高く (中公文庫)

空より高く (中公文庫)

 

 単行本より少し色の薄い青空をバックにしながら

物語のエッセンスを各所にちりばめています。
文庫版はディアボロ以外にボール、クラブ、デビルスティックも登場しています。
ここでもジャグラー目線で

「ピエロは何の技の途中なんだ、オーバーヘッドシンクロファウンテンか?」

とか思ってしまいますが、全体の構図が既にファンタジーなのでそこはご愛敬ですね。

あらすじは他サイトで既に詳しいので割愛しますが、
ざっくりいうと高校生が主人公の青春物語です。(ざっくり過ぎ?)
書評なんかはうまい人にお任せして、
あとはひたすらジャグラー目線でこの作品について語っていきます。

文章のプロからジャグリングを見ると

こんなこと言うと偉そうですが、ジャグリングの表現はさすが文章のプロですね。

細い紐をしっかり見ていなければ、ディアボロが自分で地面から浮き上がっているんじゃないかと勘違いしそうなほど軽やかな動きだった。(中略)ディアボロも浮き上がったり横に流れたり、ピエロさんの肩から腕に滑り落ちたり、頭のまわりを一周したり……猫がじゃれついてるみたいだ。

ディアボロの動きを猫に例えるという発想自体がまずなかったので新鮮でした。
それでいて、ディアボロのあの身体にまとわりつくような動きは
確かに言いえて妙だなと思いました。
ジャグラーが技名だけでイメージできてしまう動きを
文章のプロが表現するとこうなるのかというところで楽しめます。

確かな取材に基づいた描写

ビーンバッグ、フラッシュ、カスケード、レッグロール、
アンダー・ジ・アーム、パッシング、ラン・アラウンド...

ジャグリング未経験の人には聞きなじみのないカタカナ語ですが、
ジャグラーにはおなじみのものばかりです。
このように道具の名前、技の名前がけっこう出てくる他、
主人公がボール3個の練習の前にまず「両手で1個」の練習から始めていたり
主人公の師匠が「いちばん早くカッコがつくと思うよ」と、
数ある道具の中からシガーボックスを勧めたりする辺り
「ジャグリングあるある」満載で、結構リアルです。


何より共感できたのが、ジャグリングをしているときの感覚を語るこの部分です。

「ジャグリングって、あるレベルまでいくと、あんまり考えなくてもいいの。体が勝手に動いてくれて、頭は百パーセント集中してなくても、そこそこの技はできちゃうわけ」
 考えごとをしながらでも、できる。といって、規則的な動きで宙を舞うクラブやボールを目で追っていると、考えごとに百パーセント沈み込むこともない。ジャグリングに集中しているような、していないような、考えごとに夢中になっているような、なっていないような、その微妙なバランスで技をつづけていると、やがて頭の中が真っ白になる瞬間が訪れる。
「その瞬間が、いいの」

作中ではこの状態を「ジャグリング・ハイ」と呼んでいますが、
ジャグリングを続けている人ならば少なからずこの感覚を経験したことがあるのではないかと思います。
重松先生ご自身が気づいた感覚なのか、
どなたかジャグラーの方への取材で語られたことなのか定かではありませんが
パフォーマンスの表層の部分ではない、ジャグリングの魅力の本質的な部分を掬い上げてくださっています。

ツッコミどころもないではない

今のところほめちぎっていますが細かいことを言えば、
主人公が駅ビルの本屋でジャグリングの入門書をサクッと購入できているところとか、
(よほど大きい書店に行かないと実店舗ではなかなか入手できません。関東だと違うのかな…)
主人公のジャグリングの師匠が、大人になってからジャグリングに出会い、
仕事も続けながら練習して1年3か月でボールは6ボールを習得、
クラブ、デビルスティック、ディアボロ、シガーボックスも人前で見せられるレベルまで上達しているところとか、
(ジャグリング経験者なら共感してくれると思いますが、驚異の成長スピードです。)
ツッコミどころがないわけではないのですが、そういう点を見つけるのもまた楽しいですし、
それらが特に物語の邪魔にはならないで読み進められます。

映像化期待!

と、ここまで本筋についてはほぼほぼ触れずに書きましたが、

単純に物語としても楽しめる作品です。


ともあれ、かなりのビッグネームの作家さんに

ジャグリングを題材として書いていただけたのはうれしいですね。
(映像化されたりしないかな...NHKEテレあたりで...どうでしょう?)

ではまた!