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日々是ジャグリング

ジャグリングを通じて感じたこと考えたことを綴っていきます。

「正しい発声」について随分と誤解していた―鴻上尚史『発声と身体のレッスン』

どうも、ゴ~チョです。
現在、プライベートで「ジャグリング・ユニット・フラトレス」という団体で制作(ざっくり言えば裏方)の仕事をしています。演出要素にジャグリングを取り込んだ演劇作品がウリの団体です。

fratres.wp.xdomain.jp

この団体との絡みを機に、演劇関連の書籍をちょくちょく読み始めています。
15年前に出版された本の増補版なのですが、「発声」について色々と誤解していたことがわかったのでまとめてみます。役者に限らず、大道芸で声を出すジャグラーにも役立つ情報ではないかと思います。

鴻上尚史『発声と身体のレッスン』

発声と身体のレッスン 増補新版 ─ 魅力的な「こえ」と「からだ」を作るために

鴻上 尚史 白水社 2012-03-24
売り上げランキング : 36984
by ヨメレバ


発声やそれにまつわる事柄について、僕が強く思い込んでいたことから、なんとなくそうじゃないのと思っていたことまで5つほど並べました(実はもっとありましたがここでは5つだけ紹介します)

  1. 目指すべきただ一つの「正しい発声」がある
  2. 腹式呼吸のためには腹筋を鍛える必要がある
  3. 「ア、エ、イ、ウ、エ、オ、ア、オ」を力強く短く切って言う発声練習
  4. 滑舌の訓練といえば早口言葉や「外郎売り」
  5. 皆で掛け声を出してストレッチ

『発声と身体のレッスン』を読んでわかりましたが、これら全て誤解のようです。
書籍の内容と照らしつつ、ひとつずつ説明していきます。

 

「正しい発声」は一つではない

響いてよく通る声がいわゆる「正しい発声」と思われがちですが、著者鴻上氏の考える「正しい発声」とは"自分の感情やイメージがちゃんと表現できる声を手に入れること"です。感情やイメージによっては「よく通り、響く声」がふさわしくないときもあります。また、たとえ声帯に負担がかかったとしても「押しつぶした声」が感情やイメージに適っているのならばそれが「正しい発声」たりうるということです。ただひとつの「正しい発声」があると思い込むことは表現力の幅を狭めることにも繋がるといいます。

 

腹筋運動は"丹田"を意識するための手段に過ぎない

「正しい発声には腹式呼吸が必要」

ここまでは問題ありません。

腹式呼吸を身につけるためには腹筋を鍛える必要がある」

これは少し違います。腹式呼吸の際に重要となる"丹田"(臍のこぶしひとつ分下辺り)を意識しやすくするための手段として腹筋運動がよく採用されているというだけです。

 

発声練習は力んじゃダメ

「ア、エ、イ、ウ、エ、オ、ア、オ...」

発声練習と言えばコレ、みたいなところがありますが、スタッカートを利かせて力みながら勢いよく発声するのは間違いだそうです。声帯を守るためにもとにかく力まないこと。短く切って言おうとするとつい力んでしまうので、最初は「アーエーイーウーエーオーアーオー」と力を抜いて伸ばして発声します。その後で、力まないように注意しながら短く切った「ア、エ、イ、ウ...」をやっていくのが声帯に負担をかけない手順のようです。

 

感情やイメージを無視した早口では意味なし

早口言葉と「外郎売り」*1、滑舌の訓練といえばこれらのイメージですが、鴻上氏曰く、これらで練習した人が陥りがちな二つのクセがあります。

  • 言いにくい言葉を言う時に、緊張するクセ
  • 感情やイメージがない言葉を、一生懸命に言うクセ

この書籍で一貫して言われているのが、"発声のときに身体に余計な緊張を入れないこと"です。その主張を鑑みれば、上記の一つ目のクセがよくないのは言わずもがなですね。
二つ目のクセに関しては、こういった記述があります。

 俳優の仕事は、自分のしゃべる言葉に溢れる感情やイメージを込める仕事です。
(中略)
 ですから、「早口言葉」を言う時も、難しくて、同時に自分がイメージしやすいものを選んでください。そして、早口言葉と思わず、セリフのひとつとしてイメージして言うのです。

頭ごなしに早口言葉がダメというわけではなく、取り組み方の問題ということです。「外郎売り」については、およそ300年ほど前の文章に出てくる古めかしい言葉にどれだけイメージや感情を乗せてしゃべることができるかを問われます。俳優としてはただ早口で淀みなくしゃべれても意味はなく、言葉のイメージを持ちながら、かつ早口が求められます。早口言葉にしても感情やイメージを込める練習が必要になるわけですね。

 

ストレッチは"自分の「からだ」との対話"

演劇部や劇団での稽古で、あるいは運動部の練習前に、メンバーが円になって
「いーちにーさんしー...」
と言いながら掛け声に合わせてストレッチをする光景は想像に難くなく、みなさん馴染みのあるものだと思います。アレ本当はよろしくないらしいです。
鴻上氏はこう述べています。

 ストレッチとは、あなたの「からだ」とあなたの"対話"です。あなたの「からだ」は毎日、コンディションが違います。ストレッチは、あなたがあなたの「からだ」に、「今日の具合はどうですか?」と問いかけるものなのです。それを、中学や高校の時にやったように「いっち、に~、さん、し~」と円陣を組みながら、全員でやっては、まったく意味がないどころか、害悪になります。あなたの「からだ」の大切な声を、あなたが聞き漏らしてしまう可能性があるのです。 

ストレッチは一人一人が自分の「からだ」の声に注意しながら、自分のリズム、自分のペースですべきものということですね。

 

義務教育の体育か音楽の時間に教えるべきではないか

この書籍、いくら増補版とはいえ、メインとなる内容は初版とそうそう変わっていないはず。それなのに未だに発声や腹式呼吸に関する誤解が世間で払拭されていないのはいったい誰の怠慢なのでしょうか(それとも僕が情報弱者なだけですか?)
声優や俳優ほどではないにしろ、仕事で声を出す必要がある人って結構いるのではないかと思います大道芸人もそうだし、学校の先生も声使いますよね)。無理なく声を出し、ながく声帯を守るための「正しい発声」「正しい身体」のレッスン。この書籍にあるレッスンの一部の実践だけでも、あるいは知識だけでも役に立つ人は少なくないでしょう。


個人的には、"ダンスでリズム感や表現力云々..."という前に「正しい発声」について義務教育で教えるべきじゃないかと思いました。

ではまた!

 

発声と身体のレッスン 増補新版 ─ 魅力的な「こえ」と「からだ」を作るために

鴻上 尚史 白水社 2012-03-24
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*1:享保3年(1718年)に初演された歌舞伎の演目の一つ。今日ではその劇中に出てくる外郎売の長科白を指すことが多い。暗唱、発声練習や滑舌の練習に使われている。